2026/03/09

春めいて合掌屋根を葺き替える

 



 白川郷を取り囲む山々に残雪がまだ分厚い


 しかし風はもう春のように温かく、合掌造りの大屋根の間を縫って歩いて心地が良い。

驚いたことに、雪解けが始まったばかりなのに、もう屋根の吹き替えが始まっていた。映像

で見たように村中総出、ということではなく、10人足らずの人足が屋根に上っている。


 これだけの数の茅葺大屋根があるのだから、ひょっとすると雪解けと同時に屋根の吹き

替えを始めないと、又来る冬までに終わらないのかもしれない。しばらく見ていたけれど、

職人たちは要領よくスムーズに、どんどん吹き替えを進めていくようだった。



 里の中の田んぼや畑の隅にまだ少し雪が残っていたが、ほとんどは土が露出して畔に

は若草も萌え、「雪解け」の季節に突入したという風情があふれている。田んぼの間に曲

がりくねる細道は、もうかんかんに乾いてして、土埃が舞うかと思うほどだ。


 家の庭に近所の人が4,5人集まっていどば井戸端会議のようである。この季節、何より

うれしい気持ちになっているだろうと思う。長い雪の下の生活からようやく解放されて、さ

あ、これからは一直線に春に向かう。花が咲き鳥が歌い風が薫る春である。



 里の奥の小高い丘に登ってみた。山にすっぽりと囲まれるように存在している里がひと

目で見渡せる。周りを囲む山肌にはまだ白く輝く雪が残っている。裸になったままの灰色

の雑木が立ち並び、それを杉林が黒く囲んでいる。山はまだ冬のままだ。


 空には白く薄い雲が張り付いて動かない。その雲の下に灰色の乾いた街道が一本貫い

ているのが見える。その街道の右左に合掌屋根が高く抜きん出ている。手前のほうには

雪が解けて畔を現わした小さな田んぼが見下ろせる。里はもう春が始まる。




2026/03/08

陽ざしまで黄色に染めて花ミモザ

 



 久しぶりに公園を歩いたらミモザが咲いていた。


 あまり馴染みの花ではないけれど、この花の近く一帯の空間ををパッと明るくしている

ように見えるて、人が大勢まわりに集まって、大撮影会をしていた。春先の黄色の花は、ど

れもみな、その辺りの空気を明るくしてしまうようである。山茱萸、マンサク、連翹など。


 近くに木蓮の木があり、これもいつの間にか満開になっている。3月になって、季節がぐ

っと進んだ感じになった。それはもう、「劇的に」と言ってもいいような変化であり、季節は

正直者で、きちんきちんと春の仕事をしつつある。エライもんだ。



 河津桜も満開、あるいは少し散かけていて、「いつの間に! 」という感じだ。染井吉野も

いいけれど、河津桜がずうう~っと続いている並木道も大いに見ごたえがある。けれど、

河津に行ったことはない(映像だけ見た)。各地にいろんな色の桜が増えればいいと思う。


 寒緋桜というのも咲いている。紫がかったような赤のうんと濃い色で、咲きかけは俯い

た花をつけている。この桜は色が濃くはっきりしているので、数本並んでいても見事だ。

沖縄など暖かい地方の桜だそうだが、この公園でも毎年元気に咲く。



 公園の花は、総体として梅が後退して、桜の類が前面に出てきた感じだ。そうして地面

を見ると、遅咲きの梅の下で水仙の鮮やかな黄色が覆い尽くし、大勢の人が写生してい

る。絵が描ける人は幸いなるかな、といつも思う。無芸無能で終わるのはサビシィー! 


 もうしばらくすると公園の景観はまたゴロリと変わっているだろう。染井吉野が大手を振

って咲き、連翹や雪柳が色どりを添え、桃も大きな花を咲かせるかもしれない。しかしそ

のころは野っぱらの道端にもタンポポが群生し、小さな野の花が勢いづいているだろう。




2026/03/06

せせらぎの水音に堪えず落ち椿

 



 椿はたいてい仰向けに落ちている。


 花びらを伏せて俯きに散っている椿はあまり見たことがない。そこで、「落ちざまに虻を

伏せたる椿かな(漱石)」という句が議論になるらしい。椿の花を見るたびに、このことを思

い出して散った花びらを眺めるが、俯きか仰向けか、どちらが正しいのかわからない。


 椿を眺めるのに、小難しい物理学的理屈を考えるのは、いささか興ざめのような気がす

る。それで、同時期に咲く山茶花と比べてみたりする。大きな違いは、山茶花が花びらを

一枚ずつ散らすに対して、椿は花びらも蕊も一緒くたにぼとりと散ってしまう。



 これ以外にも細かい点に違いがあるのだろうけれど、大雑把いい加減の自分にはわか

らない。で、どちらが好ましいかと言えば、なんでか山茶花のほうである。だいいちに花び

らが一枚づつハラハラと散るのが好ましい。なんだか嫋やかな感じがするではないか。


 しかし椿の方に魅力がないではない。花の深い赤色は見て美しい。それに実から油がと

れる。この椿油は油として大変優秀なんだそうだ。食用としてもいいし、肌や髪にもいいと

言っている。(それにしては、スーパーなどで見かけないのはどうしてだろう? )



 桜のころ山極の道を歩いていて、神社の境内でお婆さんに出会った。問わず語りに、娘

時代、大島から船に乗って東京下町に椿油を行商していた、という話をした。大島から椿

油を担いで上京すると、拠点の家で寝起きし一週間ぐらい行商して歩いたという。


 若かったのでお得意さんを巡り歩くのは楽しかった、まったく苦労と思わなかった、と言

う。ただ背中の椿油が重くておもくて、それが一番辛かったと言う。今は引退し、下町の娘

の家で日を送っていると話した。お婆さんの肩に桜の花びらがハラハラと散っていた。




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