八高線の沿線を歩いているときにそれを見た。
公園の一角に、冷たそうな水が溜池のように淀んでいて、岸辺になんとまあ、桜が咲い
ていた。よく見かける縮かんだような、なんだか哀れなような、十月桜ではなく、花びらが
大きくて八重になっているのもあり、更に赤いのもあった。
今思うとこれは、うっかりと咲きだしてしまったサトザクラじゃあんめえか、と疑っていた。
しかし念のため検索してみたら、一般に「十月桜」と言われる品種だそうだ。うっかり、「十
月桜」とは染井吉野の狂い咲き、とばかり思っていたが、やはり調べてみるもんだなあ。
これを見たのは、まだ9月だったように思う。陽ざしは穏やか、吹く風は爽やかで涼しく、
桜が咲いているけれど、どこか秋の冷かさが胸いっぱいに感じられ、春のムン! とする
暖気はどこにもない。なのに紛れもなく桜が咲いていて、妙な気がした。
だいたい桜が秋に咲くというのは、怪しからぬことである。桜というものはやはり、人々
が待ちにまって、開花情報なども出て、今かいまかという状況において咲くべきである。そ
れが桜など思いもよらぬ秋に、ひょいっと咲かれた日にゃあ、困ってしまう。
しかしここの公園はあっけらかんとなにもなくて、居心地がよかった。あまりにも作り過
ぎた公園は、ごちゃごちゃ目移りがして困る。歩いていて偶然に出くわした公園だが、木が
植えてありその下に小道が曲がりくねり、そうして端っこにこの池があった。
池の端の日陰で随分長い時間ぼうお~っと過ごした。なにしろ気分がいい、離れ難い。
歩くときはどうしても事前にコースを決めてしまうが、本来なら何も決めずに行き当たりば
ったりが一番いい筈だ、がしかし、何分にも蚤の心臓、それができない。
脚の向くまま、は実は難しい。