嫌われモノの葛だが、花はまた別。
大繁茂の葉裏にひっそりと隠れるように咲いている。花の色は鬼の葛に似合わしからぬ
可憐な紫色で、野の花に似つかわしく思える。試みにその花をクンカクンカ匂ってみると、
ほんのかすかだけれど、実に清々しい香りが周りに漂っている。
その香りは秋の澄明な水のように幽かに漂っていて、沈丁花や木犀のように「どうだ、い
い香りだろう、嗅ぐべし! 」というような押しつけがない。人知れず咲いた花から、人知れ
ず香っているので、ややもすると花も香りも、気付かぬまま通り過ぎてしまう。
香りがある花、無い花、いろいろあるけれど、あの香りは鳥や虫を引き付けるためのも
のだろうか。どうも遅くに出現したヒトのためではよもやあるはずがないと思える。なにし
ろ鳥や虫は、いや動物すべて、匂いで食えるものか食えないものか、判断している。
とすると、動物どもは匂いに命を預けている、と、こういうことになるのだろう。だからみ
んな(動物は)、匂いに極めて敏感で、猫なんぞは食えそうもないと分かれば、プイっと横
を向いてしまう。あれは食わず嫌いなのではなく、食ったら死ぬ、と思ってのことだろう。
それに比べ、われらホモサピエンスは匂いに鈍感にできている。食えるものかそうでな
いものか嗅ぎ分ける、という動物としての基本のキをすっかり無くしてしまったらしい。だ
から、なんでもかんでもひとまずは食ってみる、という作戦に出たようだ。
かくして・・・茸を無暗に食って七転八倒し、フグをやたらに食らってあえなくなったりして
手痛い勉強を重ねてきた。その結果、ますます匂いに鈍感となり、その代わり、クサヤを発
明し、鮒ずしを作り出し、しょっつるを発見した。どっちがいいかなあ!
セイジ家の嘘っぱちを嗅ぎ分けられたら。