伊根の舟屋に着いたのは夕暮れ迫る頃。
伊根町は丹後半島の突端近くにあり、天橋立からでもまあまあの距離がある。海
岸に沿った道路を、傾いてきた日を追うように、奥へ奥へと進む。だんだんと車が
少なくなって、左手の山の緑、正面の畑などの広がりが強く印象に残っている。
伊根の舟屋は、もうずいぶんの昔から行ってみたいと思っていた。が、こっちか
らはなにしろ遠い。ようやく機会に恵まれ、出雲へ行く途中に立ち寄ることが出来
たのは、もっけの幸い。ようやくあこがれの人に会えるのだ。
たどり着いた時はすっかり暗くなっていた、なんてことになったら長年の夢が雲
散霧消してしまう。早く、早くと思いながらたどり着いて、幸い海岸ぷちの駐車場
に止めることが出来た。はやる心を抑えながら車から降りた。
目の前の海の向こうにも、こっちの海岸の先にも、あっちもこっちも舟屋だらけ
だ。こんなにどこもかしこも舟屋があるとは知らなかった。目に入る海岸端はすべ
てずらりと舟屋が並んでいる。遠くの海岸にも並んでいる。
興奮の時が過ぎて気持ちが落ち着いてきた。海は夕暮れの中で静かに揺蕩ってい
る。さざ波に日が反射してきらきら光る。舟屋は舟小屋の口を開けたまま、夕暮れ
の薄明りに溶け込もうとしている。ちゃぷりという波音だけが聞こえてくる。
舟屋という形が、よくぞ今日まで残ってきたものだと思う。大きな若狭湾の中の
更に湾入した地形だから、海が元来静かなのだろう。直接大洋に面した海岸なら
ば、とてもこういうわけにはいかないだろうナア。
これからも長く残ってほしいと思う。こっちの行く先は短いからもう見ることも
ないだろうけれど、素朴で静かで、だれもがほっとするような、いい眺めである。
住み心地、建て替え、いろいろ問題はあるのだろうが、是非残ってほしいものだ。
願わくば、この近くに津波がなきように。