東海のどこかの浜辺だった。
この季節とは思えないほどの温かい小春日和で、あまりにも気持ちがいいから、ざくざ
くと小石の浜をあてどなく歩いた。まどろむような静かな波が岸辺に寄せている。足元は
富士の溶岩が波で砕かれてできたかに見える、砂ではなく黒っぽい小石である。
空はどこまでも晴れているし、海の水は澄んで遥かな沖まで青い。遠くの岬の山影がべ
ったりと青く染まって海に溶け込んでいる。なぜだかわからないが、たまたま富士の秀麗
な裾野は霞んでいて見えなかった。けれどこの浜全体が春のように温かい。
こんなにアッケラカンとして明るい冬の日もあるのだなあ、と感心してしまった。どこを見
ても暗く陰鬱な影は、その染みほども見当たらない。どこもみな粒のような陽光が煌め
き、悠々閑々、落ち着き払っている。こんなことがあっていいものなんだろうか。
かと思えば、毎日吹雪に吹きまくられる冬もある。空は暗い暑い雲にがっしりと蓋をさ
れ、毎日まいにち雪や雨が降る。もう要らない、と言っても聞いてはくれない。暗くて寒く
て、こころ浮き立つようなことは、まったくどこにも転がっていない。
日本列島は実にさまざま変化に飛び過ぎている。けれど住んでいるところが、まあまあ
平均的なところだろう、と自動的に思いながら生活している。だからこういう東海の浜辺
のようなところへ、たまたま行くとその違いが深く認識されるのだろう。
しかしながら、日本国中どこ構わず住む、というわけにはいかないし、またどこ構わず旅
をする、などという事も出来ない。狭い一か所に閉じ込められている身とあってみれば、
出来るのはせいぜい妄想を膨らませるぐらいのところ。仕方ないよなあ。