白川郷を取り囲む山々に残雪がまだ分厚い
しかし風はもう春のように温かく、合掌造りの大屋根の間を縫って歩いて心地が良い。
驚いたことに、雪解けが始まったばかりなのに、もう屋根の吹き替えが始まっていた。映像
で見たように村中総出、ということではなく、10人足らずの人足が屋根に上っている。
これだけの数の茅葺大屋根があるのだから、ひょっとすると雪解けと同時に屋根の吹き
替えを始めないと、又来る冬までに終わらないのかもしれない。しばらく見ていたけれど、
職人たちは要領よくスムーズに、どんどん吹き替えを進めていくようだった。
里の中の田んぼや畑の隅にまだ少し雪が残っていたが、ほとんどは土が露出して畔に
は若草も萌え、「雪解け」の季節に突入したという風情があふれている。田んぼの間に曲
がりくねる細道は、もうかんかんに乾いてして、土埃が舞うかと思うほどだ。
家の庭に近所の人が4,5人集まっていどば井戸端会議のようである。この季節、何より
うれしい気持ちになっているだろうと思う。長い雪の下の生活からようやく解放されて、さ
あ、これからは一直線に春に向かう。花が咲き鳥が歌い風が薫る春である。
里の奥の小高い丘に登ってみた。山にすっぽりと囲まれるように存在している里がひと
目で見渡せる。周りを囲む山肌にはまだ白く輝く雪が残っている。裸になったままの灰色
の雑木が立ち並び、それを杉林が黒く囲んでいる。山はまだ冬のままだ。
空には白く薄い雲が張り付いて動かない。その雲の下に灰色の乾いた街道が一本貫い
ているのが見える。その街道の右左に合掌屋根が高く抜きん出ている。手前のほうには
雪が解けて畔を現わした小さな田んぼが見下ろせる。里はもう春が始まる。