しかしまあ、鬼とはよく名付けたものだ。
赤鬼を連想させるらしいが、この世で赤鬼を見た人がいるのだろうか。花そのも
のは大きく豪華で綺麗なのに、何もこんな名前を付けなくてもいいだろうに。その
おかげで名前からくるイメージが、実際の花と大いに違う。
山深き里の夏の日、周りは眠ったように人影がないけれど、家の周りの畑には夏
の花々が生きいきと咲いていた。おいらん花、ヒャクニチソウ、ミソハギ、ツキミ
ソウ・・・どれもこれもが我が世の天下、という顔で咲いている。
山奥で空気がいいせいか、はたまた畑の栄養がいいせいか、街の畑の花とは勢い
が違う、瑞々しさが違う、ようするに溌剌、生き生きとしている。花が生きいきと
して輝きを放っているような場合を見ることは少ない。
たいていどこかしら草臥れたような、生気のないような、「わし、もうダメです
ねん、元気出まへんよって、このまま眠らせてもらえんか」なんて顔をしている。
花だって都会の生活はしこたま辛いらしい。
この日一日、山里の一本道を登ったり下ったりして、花を見、沢の音を聞きなが
ら歩いた。頭の上からじりじりと日が照るけれど、山がすぐそこだから風は爽やか
だ。それにもかかわらず、どこを見ても人がいない。閉じ籠っているのだろうか。
沢が砂防ダムでせき止められ、滝のように轟々と流れ落ちる場所で、ようやく一
人の釣り人に出会った。釣れるまで見ていてやろうと思ったが、たちまち大きなイ
ワナのような一匹を釣り上げた。
思わず、こっちから「いえ~ィ、大成功!? 」と声を上げたら、向こうは右手
を大きく上げて、ガッツポーズをした。あんなに簡単に釣れていいものだろうか、
よほどの腕の釣り人なのだろうか。釣りをしたくなってきた。
山深き里、バンザイ!
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