2025/10/07

刈入れて案山子も疲れ昼下がり



 


 案山子も近ごろ種類がいろいろだ。


 まるで人そっくりにマネキンを使ったもの、昔ながらの権兵衛スタイル、ワシやタカの猛

禽を模したもの、巨人の目玉みたいなもの、それぞれ工夫細工を極めて賑やかである。こ

れでもって雀が寄り付かなくなれば、この大昔からの戦いは人間の勝利だが・・・


 雀はいったい何にぶつ魂消るのだろう、人間の姿だろうか、それとも音だろうか、はたま

たピカリとする光だろうか。これをお百姓さんは、ああであろうか、こうであろうか、しんね

りむっつりと考えに考え抜き、どれ、一丁ためしてみるべえ、と工夫してきたらしい。



 江戸の昔は「鳴子」などと言う素朴一点張りの道具が使われたようだが、同時に権兵衛

スタイルも併せていたかもしれない。記憶をたどれば、ガキの頃は大砲みたいなものの空

砲をぶっ放して、里中を揺るがしていた。雀どころかこっちまでビックラこいた。


 その後は、きらきらと陽を反射するテープが登場した。これはいきなり驚かさないだけい

いし、反射光がなにやらきれいでもあった。続いて、使い古しのCDが光を反射した。いよ

いよ田んぼにもハイテクが浸透してきたのである。・・・いつの間にか全部消えたけれど。



 こうざっと見てくると、大昔からの人と雀の化かしあい、騙されあいの連綿たる歴史のよ

うである。しかしながら、今もって決定打が生まれないという、苦しい歴史でもありそう

だ。月へロケットを飛ばすことができても、雀の子一匹さえ容易に騙せないのである。


 人間の崇高なる英知をもってしても、生き物を思うように支配できない、ということは逆

から見れば生き物はみな、それぞれに利口だという事にならないか。生き物を皆わが支配

下に服せしめるのは、ひょっとするとできない相談ではないのか。人間よ、驕るなかれ!


 雀の子遊べや案山子の傍に来て。




2025/10/06

車窓埋め黄金の稲穂どこまでも

 



 この時期、車窓いっぱいに稲穂の黄金が波打っている。


 特に東北地方を列車で旅すれば、平野はむろん、盆地だってこの黄金の波が埋め尽く

している。西の方はよく知らないけれど、まあたぶん同じような案配ではないかと推測し

ている。ひょっとしてこれが本物の金属の金(ややこしい)だったら、と不埒を考える。


 本物の金でなくても、この波の輝きはことのほか美しい。なにしろ2千年この方、米を喰

らい、稲を慈しみ育てて今日に至っている国民なのだ。秋風に揺れる稲穂を見て、旨そう

だな、とは思わないまでも、ああ! これなら当分は飢死せずに済みそうだな、と思う。



 さて、もし我が愛する米が食えなくなったらどうする⁉ ・・・ここで視点を思い切って変

えてみる。目ん玉をグウ~ンと上空へ持ち上げ、丸い地球を上から見てみる。そうすると

米なんぞ喰っていない人々が、なんぼでも見えてくるであろう。


 小麦粉を食っている人が多いが、中には「主食はジャガ芋だったけん」という人もいる

し、「ウンニャ、やっぱりタロイモだっぺよ」、「イヤ、なんといってもトウモロコシでないかい」

という人も出てくる。そしてみんなピンピン元気、要するに何を食ってもいいのだ。



 狭苦しい列島のチマチマした慣習からスッと身をかわして、高い天のその上空から地球

を眺め直すことができれば、地球はまだまだ広々と広がっている。どこへ行ってナニを食

おうと、おいそれと死んじまうことはなさそうである。案心していいらしい。


 しかしながらこれは、言うは安し行うは難し、であって、やはりそれなりの、こころの「修

行」が必用なようである。毎日チマチマ、コセコセした思いに沈み込んだら、ちょっと待て、

と一声自分にかけて、天高くこころを持ち上げる修行である。


 出来るかなア。




2025/10/05

無人駅灯影さびしく秋の暮

 




 秩父往還をぶらぶらと歩いてきた。


 関東平野の西のどん詰まりから山塊の狭い谷に入ると、国道299が秩父に向かって曲

がりくねりしつつ通じている。その脇に細い道が切れ切れに残っていて、これは昔の秩父

往還ではないかと思いながら歩いた。その道筋にぽつりぽつりと山里が存在している。


 その山里の道に行く前に、下車駅の近くにある彼岸花群生地、巾着田に立ち寄ってちょ

うど盛りの、炎のように燃え立つ真っ赤かの花を見てきた。巾着田は高麗川が恐ろしい蛇

行をして巾着絞りのような形になり、その川っぷちが恐ろしいほど真っ赤かであった。



 それはともかく、山里を歩くのは無上に楽しい。他人は「あんな所をほっつき歩いてなあ

~にがいいんだか? 」と言うだろうが、自分でも何がいいのか分からんが、とにかくい

い。山を見ても、川の流れを見ても、野っぱらの花を見ても気持ちがいい。


 しかし、人影を見かけないなあ、巾着田には死ぬほど人がいたが、こっちには観光客は

むろん、里人の姿も影も見えない。たま~に、道っぱたに埋もれるようにして、婆ちゃんが

草むしりをしている程度で、こっちを見て「あれま、人だ! 」なんて驚かれる。



 空は青く高い。優しい陽が照っている。道っぱたに赤いコスモスがほんわりと揺れてい

る。萩が有るか無きかの風にゆらりとそよいでいる。紫式部の実がルビーのように煌めい

ている。澄んだ浅い流れに小魚群れている。それを一匹かました鷺がゲップをしている。


 高校生が帰ってゆく。ハイカーが駅への道を急ぐ。踏切の警報が鳴りやむと、里は森閑

と静まってゆく。昼下がりの陽が山の向こうに隠れて、畑がはや陰り始めた。その前の民

家も屋根だけに傾いた日が当たっている。・・・秋だなあ! 


 


  短い動画 (BGM・キャプション)



訪問記録