2025/11/03

托鉢の僧の列ゆく初しぐれ

 



 いつかなにかで見た映像だけど・・・


 寺の門が重々しく開き、墨染めの姿に網代傘の僧がぞろぞろ出てきた。雨が降ってい

る。骨を凍らせるような冷たい雨、しぐれ。そんなものを一向に気に掛けるふうもなく、僧

たちはわらじの足を冷たい雨の中に運んでゆく。寒くてイヤにならないんだろうか。


 そうして山を下りて街に入り、びしゃびしゃしぐれる中、一軒一軒の戸口に佇んでなにや

ら読経をしながらひたすら待つ。やがてオバさんが現れてなにやらを僧が持つ袋に入れ

てくれる。僧は軽く一礼して、なにごともなかったかのような顔で次へ廻ってゆく。



 北陸山陰を旅行したとき、おおむね晴れの日が続いたが、ときおり晴れていると思った

のにいきなり霧のような雨になってしまう、ということがよくあった。これはしぐれではなく、

秋雨の類だったかもしれないが、ほんとに北国日和定めなきだなあ、と思った。


 砺波平野の散居集落を眺めようと、丘に登ったとたんにこの霧のような雨が降り、せっ

かく楽しみにしていた眺めが、まるっきり霧雨にけぶってしまいワヤであったし、足立美術

館の風景にイタク感激して駐車場に戻ってみたら、同じように霧雨が降っていた。



 かの地方では、いまごろ秋雨ではなく、本格的なしぐれ空になってしまったのではなかろ

うかと思う。これはもう秋雨のようなヤワなものじゃなくて、雪の前兆の、しっかりした一人

前の氷雨、骨の髄まで沁みとおって凍らせる、ほんとにイヤな奴なんだろう。


 そして間もなく、空に分厚い黒雲が被さり、ちらほらと冷たく白いものが落ちてきて、何

もかもを鬱陶しく閉じ込める毎日が、うんざり、がっかりするほど続くのではないのか。ち

ょっとだけ、この時期のかの地を見てみたいと思うが、なにしろ寒いだろうなァ。


 こんな根性じゃ、ダミだこりゃ。




2025/11/01

覚悟せむ寒気の前の神無月

 



 11月はまだ秋だろうかもう冬だろうか。


 気象庁は”晩秋である”と言っているようだが、歳時記は”もう冬だよ”と言っている。ど

っちかにキッパリ決めてもらわないと困惑するが、しかしよくよく考えてみれば、暦と季節

がぴったり一致する、なんてことはまずないのだし、九州と北海道では、季節の実感も大

いに違うだろう。だからそんなことはちっとも気にすることではない、かもしれない。


 しかし11月ともなれば、ちょっと先の方の寒さがやはり気にかかる。今夏のように死ぬほ

ど暑いのはむろん嫌だが、これから冬になってやっぱり死ぬほど寒い、というのも御免こ

うむりたい。まあ寒さもほどほどにしてもらって、小春日和の冬だとよろしい。



 冬が近づいたので家の周りの隙間の、駄木の枝を切っぱらうことにした。駄木である上

に、いいからかんの剪定を重ねているので、見るも無残なものばかりだが、それでも一応

散髪しないと、あっちに延びこっちに曲がって、まるで勝手気ままな蓬髪になってしまう。


 先ずは北西の角のミョウガ、枯れかかった茎をエイヤっと引き抜く。半分枯れているから

簡単に抜けてしまう。いつだれが植えたんだか、だれも知らないが、夏の間芽を摘み取っ

て薬味にすると、独特の香りが芬々と薫って、そうめんや蕎麦がうんとうまくなる。


 それからツツジのツンツン伸びたところを刈り揃える。あんまり深く切ってしまうと、来春

ちっとも花が咲かなくなっても困るから、慎重を期す。それから山茶花である。これはもう

花芽が出ているのだが、徒長枝がピンピン立っていて見苦しいからカットする。が、勢い

余って花芽が着いた枝をごっそりと切っぱらッてしまった。困ったもんだ。



 今年は永く咲き続けたサルスベリも丸坊主にする。枝が細いから楽ちんのようだが、細

かい枝が多くて、やがて草臥れてきた。もう止めたくなったが、いくら何でも、やりかけの

ほっぽろかしではいかん、と思いゆるゆると休んでから、やむなく再開。


 次は南東へ廻って、蝋梅と金木犀。蝋梅も花芽ができかかっているが、これはもう、もう

伸びなくていい、と言ってるのにワッセワッセと伸び放題だから、躊躇なくバッサバッサぶ

った伐る。これですっかりエネルギーを使い切ってしまったらしく、もうよれよれ。


 それで休んで最後、金木犀にとりかかる。枝には黄金色の小さな花がまだいっぱい着い

ていたが、もうなんの香も放たない。だからこれも遠慮も配慮も一切なしでゴンゴン伐っ

た。そしたら見にくいトラ刈りになって、あまつさえ形が大歪みに歪んでしまった。ああ!

 



2025/10/31

秋の宵仲よく家路犬と婆

 



 向こうのベンチにお婆さんが座っている。


 婆さんの隣に小さい犬が行儀よくちょこんと畏まっている。土手道が少し広くなった草原

にベンチが数個据えてあるが、他には誰もいない。秋の午後の陽ががっくりとうなだれ

て、今しも婆さんの後ろの丘陵に隠れようとしているが、薄い雲が広がり陽は見えない。


 婆さんが犬の頭を撫でたり何か話しかけたりしているようだが、ここまで声が届かない。

犬がなにか珍しいものを見るようにじっとこちらを見つめている。まるで同居している婆さ

ん以外の人間を始めたみたような、そんな顔で見つめている。



 「ポチや、他人様をそんなにじろじろ見んじゃないよ」「うん、分かった、けど、あれは誰

だ、婆さんに似てないね」「あれは爺さんというものじゃ、初めて見るのかえ」「ほう、そうな

の、なんだか汚らしい格好だねえ」「これ! そんなこと言うもんじゃないよ」


 と、そんなことを言っているのかどうか。婆さんが話しかけると犬は短く相槌を打ったよ

うにうなずいている。しばらくそんな風に二人は話し込んでいたが、風が少し冷たく感じら

れるようになって、そろそろと立ち上がって、土手道を並んで歩き始めた。


 

 そうして道々またなにやかやと話し込んでいるらしい。その姿はまるで親子のようであ

り、晩ご飯を何にしようか、おかずはなにがおいしいか、テレビはなにをみようか、そんな

話を取り留めもなく、しかし仲良く話し合っているように見受けられる。


 団地の一部屋に帰って、部屋を暖めて晩御飯を作り、顎を投げ出していた犬と一緒にテ

ーブルに座って、二人とも幸せそうな顔をして食べている。外に誰もいないから、二人だ

けの会話が続いている。それから風呂に入って、二人一緒の布団に寝るのだろう。




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