2026/02/26

音立てて郡上流れる春の水

 



 郡上八幡の街中はいたるところ綺麗な水が流れる。


 なにしろ水が豊富な街であるらしい。地図を見ると有名な長良川に吉田川という川が合

流し、そこに郡上八幡の街が開けている。河川の合流点だからだろうか、街中に水路がめ

ぐらされ、どの水路も爽やかな水音を響かせて滔々と流れている。


 夏になると子供たちが川面をめがけて身をひるがえす学校橋は、吉田川にかかってい

る。覗いてみると青い水が小さな渦を巻きながら流れている。川べりにゴツゴツと岩が突

きだして、狭い水面めがけて身を踊らせるのは、いささか勇気がいるだろうと思う。



 吉田川の北側、長良川沿いに古い街並みが残っている。江戸時代の宿場町のように、

狭い通りにびっしりと軒を連ねて、小さなお土産屋さんなどが並んでいる。家と家の間に

隙間がなく、奈良井の宿を思い起こさせた。突き当りに堂々たるお寺が見えている。


 しかし街の中はどこも静かで、観光客の姿も見かけない。いまがまだ春の初めで、シー

ズンではないからなのかもしれないが、黒いトタン屋根の簡素な駅舎にも、その小さい駅

前広場にも人影がなく、春の長閑な光の中で、森閑と静まり返っている。



 その古い街並みがある東側にこんもりした森があり、四層白亜の天守が聳えている。つ

づら折れの道をを登ると、天守の正面に出て見上げる。狭い階段の脇に立って見おろす

と、城下の屋根が山の隙間に並んで、その中を長良川がうねるように流れている。


 郡上八幡の城主、青山氏の江戸屋敷があったあたりが、青山という地名となって現在に

残っているという。また、「郡上踊り」という盆踊りが有名だが、その切々たる哀調を帯び

た調べが、毎夜々々周りを囲んだ山影の、虚空に立ちのぼってゆくのだろうと思う。




2026/02/25

茅葺の大屋根出でて残る雪

 



 春ともなれば屋根の雪が消え、しかし野山に雪が残る。


 雪が消えたばかりの朝の空気はピンと張りつめて、きりきりと頬に痛い。山はまだ真っ白

な雪が覆っているし、平地もそこここに残雪の山が築かれている。目に映る景色はどれも

寒々しいが、けれど早春の気配もどこかにあって、気持ちはなんだか暖かい。


 雪が消えたばかりでどこにもまだ春の気配は感じられないが、しかし田んぼの畔のあた

りに微かに緑の色がさしている。雪の下で芽を伸ばし、今かいまかと待ち構えていた草の

喜びの姿なのかもしれない。人々も3人、5人残雪の庭に出てなにやらお喋りに夢中。



 雪解けにイの一番に姿を現す蕗の薹は、田んぼの畔にはまだ見えないけれど、どこか日

当たりのいい川辺には、もうあの輝くばかりの緑を乗せた頭を、出しているのかもしれな

い。あとで探してみようと思う。川面の水は雪解けを流して、少し笹濁りだろう。


 雪が解けた田んぼには、去年の刈入れの株が黒くにょっきりと頭をもたげ、傍の小川に

はきれいに澄んだ水がちょろちょろと流れる。向かいに見える巨大な茅葺はすっかり全身

を露わにして、雨戸を開け放たれた向こうの、白い障子が眩しいようだ。



 雪が解けたばかりの今、この里の景色を見て、花に埋め尽くされた光景を想像するのは

難しい。しかしもう間もなく、野は緑に覆われ、梅が咲き、桃が咲き、桜や木蓮、辛夷もみ

~んな同時に咲いて、日が煌めき、温かい風が通り抜けてゆくことだろうと思う。


 それは、長い間雪に閉じ込められる地方の、またとない喜びであるはずだし、あらゆる

命が蘇るような生気にあふれる喜びであるのだろう。そういう喜びは、ただその辺りに転

がっているわけではなく、ヒトが見つけ出し、掘起こして感じるものなのかもしれない。




2026/02/24

上水の流れ煌めき春陽ざし

 



 本物の春のように温かったので、羽村の堰から玉川上水を下る。


 水ぬるむ春、とはいかないまでも、上水の流れが陽ざしを照り返してきらきらとはしゃい

でいるように見えた。ただ岸辺はまだ冬枯れに染まっていて、緑なすハコベも下草も何も

なかったが、頬を過ぎる風はそよらと吹いて、とても気分がよい。


 玉川上水は江戸時代に開削されたことは誰でも知っている。そして羽村の堰から四谷

大木戸までその距離43㎞だが、高低差がなんと93mしかない、ということに誰もが驚く。

平均勾配が100mにつき、たった21cmしかない、測量器具などない時代、驚きべきだ。



 上水が滔々と流れる脇に砂利の遊歩道が付いている。桜の並木があり、その時期には

墨堤も顔負け、というような花の堤になるらしい。そんな道を500mほど下ると、又も堰で

流れが止められ、流れてきたほとんどの水がゲートを通って地下に吸い込まれてい行く。


 ここから約8㎞離れた村山貯水池へ、地下水路で送られている。そのゲートのあたりを

凝視するとなにやらゴーゴーとした水音が聞こえるようだ。この堰を過ぎると上水は浅く

小さな流れに変わって、川幅も狭くなり、まるで別人のようにおとなしくなっている。



 川岸に大きなお寺があって、本堂も庫裏もどっしりと静まり、睥睨するように聳えてい

る。境内の端っこに梅が満開になっていたので、梅見を兼ねて休憩する。なにか巨大なも

のに抱かれているような思いがした。背中から梅の香りが微かに漂ってくる。


 隣が造り酒屋になっているので覗いてみた。白壁の蔵が並び庇に大きな杉玉が揺れて

いた。土の上はどこもきれいに掃き清められ、清々しい。裏門に廻ってみたら、梅林があっ

てこれもまた満開、白梅、紅梅、薄紅、様々に咲き競い、むせ返るような感じがする。



 上水の脇の遊歩道はここで途切れ、代わりに奥多摩街道が寄り添ってきた。それも終わ

ると、流れは住宅の裏に入って見えなくなった。そして青梅線拝島駅のあたりで再び現

れ、その先はもう、上水の両側に遊歩道が付けられていて、づっと続いている。


 続いているけれど、いささか草臥れたらしい。少し歩いて、梅の花が満開の小さな公

園に休憩して、今日はここまでにしようと思った。まだ日も高いし、そよ風も吹いているの

だけれど、これからまだまだ歩く春の日もあるから、ここから電車で帰ることにした。


 いい一日だったように思う。




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