本物の春のように温かったので、羽村の堰から玉川上水を下る。
水ぬるむ春、とはいかないまでも、上水の流れが陽ざしを照り返してきらきらとはしゃい
でいるように見えた。ただ岸辺はまだ冬枯れに染まっていて、緑なすハコベも下草も何も
なかったが、頬を過ぎる風はそよらと吹いて、とても気分がよい。
玉川上水は江戸時代に開削されたことは誰でも知っている。そして羽村の堰から四谷
大木戸までその距離43㎞だが、高低差がなんと93mしかない、ということに誰もが驚く。
平均勾配が100mにつき、たった21cmしかない、測量器具などない時代、驚きべきだ。
上水が滔々と流れる脇に砂利の遊歩道が付いている。桜の並木があり、その時期には
墨堤も顔負け、というような花の堤になるらしい。そんな道を500mほど下ると、又も堰で
流れが止められ、流れてきたほとんどの水がゲートを通って地下に吸い込まれてい行く。
ここから約8㎞離れた村山貯水池へ、地下水路で送られている。そのゲートのあたりを
凝視するとなにやらゴーゴーとした水音が聞こえるようだ。この堰を過ぎると上水は浅く
小さな流れに変わって、川幅も狭くなり、まるで別人のようにおとなしくなっている。
川岸に大きなお寺があって、本堂も庫裏もどっしりと静まり、睥睨するように聳えてい
る。境内の端っこに梅が満開になっていたので、梅見を兼ねて休憩する。なにか巨大なも
のに抱かれているような思いがした。背中から梅の香りが微かに漂ってくる。
隣が造り酒屋になっているので覗いてみた。白壁の蔵が並び庇に大きな杉玉が揺れて
いた。土の上はどこもきれいに掃き清められ、清々しい。裏門に廻ってみたら、梅林があっ
てこれもまた満開、白梅、紅梅、薄紅、様々に咲き競い、むせ返るような感じがする。
上水の脇の遊歩道はここで途切れ、代わりに奥多摩街道が寄り添ってきた。それも終わ
ると、流れは住宅の裏に入って見えなくなった。そして青梅線拝島駅のあたりで再び現
れ、その先はもう、上水の両側に遊歩道が付けられていて、づっと続いている。
続いているけれど、いささか草臥れたらしい。少し歩いて、梅の花が満開の小さな公
園に休憩して、今日はここまでにしようと思った。まだ日も高いし、そよ風も吹いているの
だけれど、これからまだまだ歩く春の日もあるから、ここから電車で帰ることにした。
いい一日だったように思う。
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