春ともなれば屋根の雪が消え、しかし野山に雪が残る。
雪が消えたばかりの朝の空気はピンと張りつめて、きりきりと頬に痛い。山はまだ真っ白
な雪が覆っているし、平地もそこここに残雪の山が築かれている。目に映る景色はどれも
寒々しいが、けれど早春の気配もどこかにあって、気持ちはなんだか暖かい。
雪が消えたばかりでどこにもまだ春の気配は感じられないが、しかし田んぼの畔のあた
りに微かに緑の色がさしている。雪の下で芽を伸ばし、今かいまかと待ち構えていた草の
喜びの姿なのかもしれない。人々も3人、5人残雪の庭に出てなにやらお喋りに夢中。
雪解けにイの一番に姿を現す蕗の薹は、田んぼの畔にはまだ見えないけれど、どこか日
当たりのいい川辺には、もうあの輝くばかりの緑を乗せた頭を、出しているのかもしれな
い。あとで探してみようと思う。川面の水は雪解けを流して、少し笹濁りだろう。
雪が解けた田んぼには、去年の刈入れの株が黒くにょっきりと頭をもたげ、傍の小川に
はきれいに澄んだ水がちょろちょろと流れる。向かいに見える巨大な茅葺はすっかり全身
を露わにして、雨戸を開け放たれた向こうの、白い障子が眩しいようだ。
雪が解けたばかりの今、この里の景色を見て、花に埋め尽くされた光景を想像するのは
難しい。しかしもう間もなく、野は緑に覆われ、梅が咲き、桃が咲き、桜や木蓮、辛夷もみ
~んな同時に咲いて、日が煌めき、温かい風が通り抜けてゆくことだろうと思う。
それは、長い間雪に閉じ込められる地方の、またとない喜びであるはずだし、あらゆる
命が蘇るような生気にあふれる喜びであるのだろう。そういう喜びは、ただその辺りに転
がっているわけではなく、ヒトが見つけ出し、掘起こして感じるものなのかもしれない。
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