向こうのベンチにお婆さんが座っている。
婆さんの隣に小さい犬が行儀よくちょこんと畏まっている。土手道が少し広くなった草原
にベンチが数個据えてあるが、他には誰もいない。秋の午後の陽ががっくりとうなだれ
て、今しも婆さんの後ろの丘陵に隠れようとしているが、薄い雲が広がり陽は見えない。
婆さんが犬の頭を撫でたり何か話しかけたりしているようだが、ここまで声が届かない。
犬がなにか珍しいものを見るようにじっとこちらを見つめている。まるで同居している婆さ
ん以外の人間を始めたみたような、そんな顔で見つめている。
「ポチや、他人様をそんなにじろじろ見んじゃないよ」「うん、分かった、けど、あれは誰
だ、婆さんに似てないね」「あれは爺さんというものじゃ、初めて見るのかえ」「ほう、そうな
の、なんだか汚らしい格好だねえ」「これ! そんなこと言うもんじゃないよ」
と、そんなことを言っているのかどうか。婆さんが話しかけると犬は短く相槌を打ったよ
うにうなずいている。しばらくそんな風に二人は話し込んでいたが、風が少し冷たく感じら
れるようになって、そろそろと立ち上がって、土手道を並んで歩き始めた。
そうして道々またなにやかやと話し込んでいるらしい。その姿はまるで親子のようであ
り、晩ご飯を何にしようか、おかずはなにがおいしいか、テレビはなにをみようか、そんな
話を取り留めもなく、しかし仲良く話し合っているように見受けられる。
団地の一部屋に帰って、部屋を暖めて晩御飯を作り、顎を投げ出していた犬と一緒にテ
ーブルに座って、二人とも幸せそうな顔をして食べている。外に誰もいないから、二人だ
けの会話が続いている。それから風呂に入って、二人一緒の布団に寝るのだろう。