青く霞んだ中に白い残雪が光る。
谷川岳のど真ん中をひょうと抜けた向こう側、麓は緑濃い夏なのに、遥かな山は
冬の名残をとどめている。この残雪の山の麓を、特段のあてもなくふらふらと歩き
回ったことがある。なにがあるわけでもない、ただの山すその里道だが。
きっかけは、この地の風物を描いた素人の絵をネットで見たから。同年代と思わ
れるその人の絵――山や田んぼの佇まい、子供時代の祭りや遊びの思い出、山里の
家や森の風景、そのどれもが自分の記憶と重なり合い、強烈に引き付けられた。
それでたまらなくなって、その俤を追ってこの地にすっ飛んできた。なんとま
あ、描かれた風景がそっくりそのまま残っている。橋を渡る少女の後ろ姿、遥か山
を望む川原の立葵、白壁を板壁で守る堅牢な家々、祠の中の長押の写真・・・
その風景を一つ一つ拾い集めながら、里の中を歩くのはとても楽しかった。中で
も孫と爺さんが遠く残雪の山を見ている光景は、まるで今の自分を見ているよう
な気がした。遠い絵の世界が、現実に目と鼻の先にある。
それほど広くもないその山里の中を縦横に歩き回り、絵の余韻に浸って半日を過
ごし大満足した。しょうもない爺さんの郷愁だが、他人はともかく本人にとっては
しょうがあろうがなかろうが、玉のように大事な想い出なんである。
夕方、後ろ髪惹かれる思いでその地を離れ、山ひとつ越えて、古い草臥れたよう
な街にたどり着いて、居酒屋で酒を呑んだ。地酒がことのほか旨かったけれど、残
念なことに下戸で量を呑めない。強かったら夜更けまで呑んでいたかったなあ。
越後の道はどこもみな思いで深い。
0 件のコメント:
コメントを投稿