昔スイカは貴重な食べ物だった。
なにしろ売っているのは真夏の1か月ぐらい、しかも、どかんとデカくて値段もそれなり。
特に育った田舎では採れない、どこか遠くの暖かい地方から送られてくるのだから、それ相
応の値段であった。ビンボー暮らしでは、ひと夏に一個買うのが精いっぱい。
子供たちはなにしろ、あの真っ赤っかの実に言い知れぬ魅力を感じた。なんと言う旨そう
実だろう、なんと言う甘そうな実だろう、あれを腹いっぱい、げっぷが出るほど、際限なく
食いたい。なにしろ家族を押しのけてでも独り占めしたい、そう思ったものだ。
なんといってもスイカは、そのまま実をガシガシ食うのがだいご味である。適度の厚みに
切ったやつを、あんぐり大口開けて、がぶりといく、しゃくしゃく、じるじる、無我夢中で
食う。これぞスイカの味、これぞ日本の夏、いやはや、うめえちゃ。
日本はさすがお刺身の国である。なんでも”生”で食するのを身上とする。果物一般でもた
いがいそのままの姿で生食をする。これを絞ったりしてジュースなどにしてしまっては、よろ
しくない。ジュースなどにすると、だいご味という味わいがどこかに消えてしまう。
日本のように、素材そのものの味、つまり生食をとても大事にする文化は少ないのではな
いか。たいていは素材をいじり倒し、味を重ね倒して、これが料理だ! と威張っている。
まあ、それはそれとして旨いのだろうが、日本はどうしてこうなったのだろう。
一つには、長いあいだ肉食ではなく魚食であった、というのがあるかもしれない。肉はど
うしたって生では食えない。もう一つは、その国の食文化はたいてい宮廷から流れ出したも
のと言われるが、我が宮廷は、手間暇かけず案外質素だった、といえるかもしれない。
生食、これが2千年の文化だ!
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