線香花火は花火の最後に灯す。
華々しくいろんな色の花火がはじけ飛んで、さあ、もう花火が無くなった、というところ
で線香花火が登場する。名残を惜しむかのように丁寧に火を点け、ぱちぱち弾ける小さな火
花をじっと見守る。そして最後の最後に、小さな火の玉が残って、やがてぽたりと落ちる。
終わったね、楽しかった夏休みもあとわずか、また学校が始まるんだなあ、9月も暑いんだ
から休みにすればいいのに、線香花火の終わりが夏休みの終わり、そして夏の終わりのよう
に思う。夏が、線香花火のようにゆっくりと弾けて、静寂の中に火玉をポトリと落とす。
線香花火は徹底的に地味な花火だ。他の花火のように七色の火を吐くでもなし、空に飛び
あがりもしない。ただ小さな火花がぱちぱち弾けて、それがだんだんゆっくり弾けて、一番
最後は小さな火の玉になって、落ちるか落ちるか、と見守る中ですうっと落ちて消える。
ほかの花火をバチバチ、ジャワジャワさんざん弾けさせた後の線香花火は、なぜか人を寡
黙にする。皆が押し黙って、華々しくもない、豪快でもない、小さな火花をジイっと見つめ
ている。この時、人のこころにどんな感情が生まれているのだろうか。
線香花火はこころに静かな情緒を芽生えさせる。これは、消えゆくものに対する惜別の感
情だろうか、それとも夏休みがあと少しかない宿題どうしよう、と焦るこころの寡黙だろう
か。この時は、大人も押し黙り、子供も静かになる。か細い線香花火一本で。
線香花火は江戸時代につくられたらしい。江戸の人たちは、この地味な花火で十分満足し
たのではないか。まあ、他にないのだから(打ち上げ花火は別にして)、満足するしかないん
だけれど、この線香花火は、ついでに人のこころにしずかな情緒を連れて来た。
線香花火は無くならないでほしい。
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