宍道湖はシンと静まっている。
水の上に、アサリ漁だろうか、小舟が何槽か見えて揺蕩うともなく浮かんでいる。なに
もかも静かに佇んでいて、まるで太古の湖の太古の魚取りを思わせるような、一幅の絵
が車窓の向こうに展開している。ここでは音がどこかにそっと隠れている。
松江はそもそも静かな街なんだそうだ。松江大橋を渡ってゆく下駄の音が、対岸でも聞
こえる、というような誇張もあるが、それぐらい騒音がないということだろう。車はもちろん
走っているけれど、あのいやらしいタイヤの軋みや走行音が不思議に聞こえない。
昨晩は松江駅の近くに泊まったが、夜8時を過ぎると大通りでさえ森閑と静まって、なに
やら寂しいような気分になった。せっかくだから街に繰り出して出雲蕎麦を試し、せっかく
ついでに日本酒ももちろん飲んだ。蕎麦屋さんの店内もしっとり落ち着いている。
いささか勢いがつき二軒目に入ると、ここもまた静かな居酒屋であった。トウキョウのよ
うに、狭い空間に詰め込むだけ人を御詰め込んで、という事がないから、わあわあ、がや
がやの人の声は聞こえない。ただ静かなときがゆったりと流れるているだけだ。
宍道湖の北岸、つまり島根半島の南麓を出雲に向かっている。ときどき車窓の草の向こ
うに一畑電鉄の線路が見え隠れしているけれど、まず電車そのものはの姿を現さない。
道路は緩やかにカーブを描いているが、民家や集落もまず見当たらない。
出雲はなにしろ、神様がおわします處、やたらに騒ぎ立ててはいけないようだ。森閑と静
まった中で、古代からの神々がゆったりと閑にお過ごしになるのだろう。松江といい出雲
といい、そういう神々が鎮まるところにちょうどいい、という感じがする。
出雲は遠くそして懐かし。
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