見おろすと城下に冬の日が射し始めた。
郡上八幡にこんなに立派なお城があるとは知らなかったので、白壁の清々しい天守を
見て少しく感動した。こじんまりした天守だけれど、それがまた郡上八幡という山に囲まれ
た小さな城下町に似つかわしく思え、天守も城下もたいへん好ましく感じられた。
天守のある高台で、手すりに摑まって眺め下ろしていたら、隣にいたおっさんが、いきな
り「郡上のなあ」と歌い始めてビックリしたが、「これが有名な郡上踊りの歌じゃ」と教えて
くれ、頼んでもいないのに一節を歌ってくれた。しわ枯れた、いい声である。
その歌がいまだに耳に残っている。
「ぐじょうのなぁ~、はちいまん、でてゆくときわぁ~」
「あめも、ふうらぁぬうに~そでしぼ~る」
おっさんはその後、ここのお殿様は青山という苗字で、江戸屋敷のあったところが青山
という地名になって現在に引き継がれている。だから東京の青山はほんとは、ここのお殿
様の持ちもんじゃったのだ、と語ってカンラ、カンラと笑った。
このおっさん、ちょっとばかり押しつけがましいと思ったけれど、決して不愉快な気分に
はならなかった。おっさんの、並々ならぬ郷土愛とお国自慢が言葉の端々にあふれ、聞く
ものの胸までも打ってくるようだった。ああ、あのおっさん今どうしているだろう。
郡上町は長良川が市街地を貫流し、また周囲の山から豊富な水が湧き出して、さながら
湧き水の街の如くである。いたるところに小さな流れがあり、澄み切った旨そうな水が流
れている。すっかり気に入ってしまい、町中いたるところを歩き回った。
長良川の支流、吉田川の対岸も歩き回った。細い路地にびっしりと昔懐かしいような建
物が並び、旅ごころをイヤ増して掻き立てた。日本列島のいたるところで、人々は落ち着
いて静かに暮らしているのだなあ、といたく実感した。冬の日も温かい城下町である。
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