尾瀬は大昔に行ったっきりだった。
それからン十年、行きたしと思えど、人がワヤワヤごっちゃりを思えば、なかなかにハー
ドルは高く、もう半分諦めかけていた。のだけれど、年取ってふと「もう尾瀬は見れないの
か」と後ろ髪惹かれ「ならば、今ならなんとか・・・」と一大(?)決心をした。
そうして、なるべく登り坂の少ないコースを選び、友人二人を騙くらかして誘い、なるべ
く人がごっちゃりでない秋、勇躍行くことに決めた。こッ早い朝、車をごろごろ転がして尾
瀬戸倉の駐車場に到着。なんだか知らないけれど、ここからバスが運んでくれるという。
バスがぐんぐん登って(バスが昇るのは構わない)、車窓から紅葉を眺めて心躍り、労
せずして鳩待峠に着いてしまった。そこから階段道をどかんどかんと下ったら、そこはもう
れっきとした尾瀬ヶ原、楽ちんなもんだ、とやたら嬉しくなった。
周りを見渡せばグループの中に、なんだ! 80代とも思える爺さん婆さんがいるではな
いか! いまどきの尾瀬はアンチエイジング、爺さん婆さん大歓迎らしいと知った。いやら
しい登りはバスでひょいっと、歩く道はどこまでも木道整備の親切さである。
青い空の白い雲が池塘に映って、天下はどこまでも秋の爽やかさ。尾瀬ヶ原は平らだか
ら、特に不満なく歩く。見渡す先は赤茶色に輝く草紅葉、周りの山は紅葉真っ盛り、秋の
陽は寒からず暑からず、なんだかどこまでだって歩けそうである。
そうして原っぱを終わり山道に入って、三条の滝の、ゴウゴウうなりを上げる水しぶきを
ぼんやり眺め、取って返して「見晴」の山小屋に入る。若いスタッフがきびきび働いて気分
がよかったが、それよりも、なんとまあ風呂に入れる。ギュウ詰めは仕方がないが。
翌日早く目覚めて表に出てみると、目先も見えないほどの濃い霧、幻想的な眺めに誘わ
れてそこいらを散歩。白い霧の中でかすかに樹木が見え、遠くの山はてっぺんだけが朝
日に照らされて霧の上に浮かんでいる。忍び寄る冬の足音が聞こえそうな眺め。
霧が晴れ山小屋を出て、きっちり真面目に整備された木道をトコトコ歩く。緩やかな上り
だけれど、木道はそれを感じさせない。道脇の紅葉が朝日にきらきらと輝いている。木道
が切れてごろた石の坂道をほんの少し登ったら、眼下に北方の森林風景が広がった。
再び木道の整備された道となって、尾瀬沼の青い湖面を左に見ながらぐるっと半周、三
平下にぶつ座わって、宿の大きな握り飯を食いつつ、滑らかな湖面を眺め、目を上げて燧
の雄姿を仰ぐ。そこからちょこちょこっと登って、どかどか下り、大清水バス亭に着いた。
遥かな尾瀬は遥かのままに。
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